「絵のある翻訳」トップページへ
ソフトウェア UI 翻訳講座 全 12 課のリストへ

 

総評:

クエリーはローカリゼーションにおいては必須のプロセスですが、日本の風土では常に危ういものです。クエリーは必要なのだということを、関係者に思ってもらうには、わかりやすく、答えやすく、またその答えが翻訳に決定的に影響する、そういうクエリーを書く必要があります。そのような観点で、今回は、よくできている箇所と、そうでない箇所が見られました。

 

一般的な状況:

実務で、クエリーを出すことは恐怖です。「こんなことを質問しては、プロとしての能力が足りないと思われないか」という恐怖が、常にあります。それでも、実務ではがんばってクエリーを書いてください。クエリーを拒むお客様は、ゆるやかに説得してください。

 

以下、青字で講評を入れました。

 

 

ストリング

質問文

Link Data

Is it “a linked data” or is it “to link data”?

 

OK です。

Paste Special

What does “Special” mean?

Is it “to paste a specific data” or is it “to paste contents of a variable Special”?

 

OK です。この "Special" が変数であると想像するあたり、工夫を感じます。間違っていてもいいから言ってみる、ということが大事です。クエリーは最終成果物ではありませんので、推測が間違っていてもいっこうにかまいません(文法やスペリングはなるべく間違わないようにしてください)。ちなみに、この Paste Special は、とあるソフトウェアの中で、「貼り付ける際に何かを基準にして移動や回転を施して貼り付け位置を決めるという、ただの「貼り付け」とは違う「特別な貼り付け」」を行うコマンドです。この Special の品詞は何か、と問うても、答えてはもらえないでしょう。

Read as:

What will be read as?

 

コロンのうしろに、さまざまなバリエーションが隠れているはずです。何が何として読まれるのですか?そのうちの一例を示してください、というききかたをすれば、答えてもらいやすくなります。

 

例:

What will be read as what ?  Please give me an example.

Test content

How is a Test content made? Or is it a fixed data?

 

私はまず、a test content なのか to test a content なのかが気にかかります。そこを間違えると、とんでもない誤訳をすることになります。お客様が、「なぜそんな質問をするんだ?こっちは忙しいんだし、お金も払ってるんだから、余計な手間かけさせるな」と、もし言ってきても、「この質問をしないと、これこれこういう間違いをする恐れがあるから、ぜひとも答えてもらわないと困ります」と説得できます。

 

「工夫をしてください」と言っておいて何なんですが、ここはやはり Does this string mean "a test content"? Or is it a command "to test the content" ?  くらいがよろしいかと思います。

 

Draw Query

Is it “to draw out a query” or is it “to create a query”?

 

OK です。

Split option

Is it “to split an option” or is it “a split option”?

 

OK です。

Display Style

Is it “to display a style” or is it a style of display such as font, size or color?

 

よくできています。

どこまでシンプルに書くか、どこまで想像力をはたらかせて詳しく書くか、は、相手によります。クエリー&回答のシステムが稼動して久しいお客様相手であれば、もっとシンプルに "Is it "to display a style" or is it "a display style" ?" でよい場合もあります。その一方、翻訳者が質問をするということ自体理解できないお客様がいます。そういう場合は、上記のような、少し凝った質問文が必要になります。なぜこの質問をするのか、この質問に答えてもらえなければどういう間違いをしうるか、翻訳対象がいかに文法や語彙の知識で太刀打ちできないか、などの説明が必要になることもあります。

Change Role

From what the roll change to what the roll?

 

質問の構文がわかりません。"From what does the role change to what?" "From what to what does the role change ?" ならわかります。しかしここはやはり、a change role なのか to change a role なのかを問うべきです。

 

Number

For what and when is a Number used?

 

質問としては、間違ってはいませんが、回答者は長い説明を求められているように感じるだろうし、どこまで詳しく答えたらいいか迷うでしょう。詳しく説明してもらうことにこしたことはありません。しかしもっと手短かに済ませられないでしょうか。翻訳者からの質問を受けることは、開発者のメインの仕事ではないのです。今のところは。

手短かに理解してもらい、手短かに答えてもらうには、what で問うより、yes no, 二者択一、あるいは三者択一式の質問のほうが好都合です。

単独の "number" を翻訳するとき、間違えてはならないのは、「数」か「番号」かということです。「数」と訳すべきものを「番号」と訳したり、「番号」と訳すべきところを「数」と訳したりしては、とても困ったことになります。質問と回答の実例を2つ示します。

 

例1:

質問: Please confirm that this is an identification number rather than an amount or quantity.

回答: This is an identification number.

 

例2:

質問: Is this the "count" (amount of) or the number as in #2, #3, etc. ?

回答: It is not a count. It is the number attribute of the XXX object similar to a part number.

 

 

Area

For what and when is an Area used?

 

これも number と似ています。回答者が親切ならこの what 質問でもよいでしょう。われわれは、長文の回答の中から、翻訳に必要な情報を引き出すことができるでしょう。しかしポイントを押さえて手短かに済ますことを考えましょう。ポイントは、「面積」かそうでないか、です。

 

Is this "Area" the amount of space as in " the area is 200 square meters" ?  Or does it refer to a particular part of the earth's surface ?

 

これは「A ですか?それとも B ですか?」という質問なので、回答者は「A です」とか「B です」とか(あるいは「A でも B でもなく ..... です」とか)答えれば済み、われわれはそれで、正しく翻訳するための十分な情報を得ることになります。

 

"the amount of space""a particular part of the earth's surface" などのフレーズは、英英辞典から引き写します。「A or B」式の質問を英語で書くとき、英英辞典はとても役に立ちます。